彼女が、ここのラボにやってきたのは、3ヶ月ぐらい前だっただろうか。背は高く、少し痩せていて、そして、見事な赤毛にそばかす。まるで赤毛のアン。そして、まるで赤毛のアンそのもののように、よく喋るのだ。
おはよう。今日、電車に乗り遅れてしまって、とんでもない目にあったの。だって彼が、朝、でかけに、大事な書類を忘れてしまって、取りに帰ったのよ。そうしたら、信号が赤になって、、、、、。
って、どーでもいいことをひたすら喋る。
そして、お姑さんになるヒトの悪口、前のラボの愚痴と続く。その愚痴を聞く役は、たいてい、最近入ってきた大人しいテクニシャンのデイビッドだ。ただひたすらに、うん、うん、それで、って、聞いている。それをいいことに、赤毛のアンもひたすらに喋る。でも、この1週間ほど前から、デイビッドが休暇中なので、部屋のだれかが犠牲になっている。
やっと、おしゃべりが終わったかと思うと、今度は、自分の結婚式のための、食事やホテルの予約から始まり、友達に招待の電話をかけたりと、ラボの電話を使いたい放題。
一体、いつ実験しているんだろう。
まあ、このぐらいなら、少々、我慢しようかと思うのだけれど、許せないのは、外国人達の発音が悪いことを笑うのだ。
ねえねえ、あのイラン人の発音って、わかんないのよね。whateverと、whateberって言うでしょう。一体、何を言っているのか、全然、わかんないわよ。きゃははは。
うーむ。許せん。そのイラン人の学生、少なくとも、その赤毛のアンよりは、人類に役に立つ仕事をしてるのに。whateberって言っても、whateverって言う意味だっていうのは、わかってるんだから、いいじゃないのよ。きっと、私の発音も言われているに違いない。
いくら若いって言っても、ポスドクになるぐらいなんだから、もう少し品格を持とうよと思うのだけれど、イギリス人に品格を求めてもしょうがないか。でも、本物の赤毛のアンの話まで、嫌いになりそう。