この街に来てすぐは、寮のようなところに住んでました。
それぞれの部屋にシャワーやテレビが付いていて、キッチンだけ共通。食事の時に、ちょっとした会話がありました。スコットランド人、スペイン人、オーストラリア人、などなど、いろいろな国の人達が、1週間、あるいは、半年といろいろなスパンで、泊まっていました。
その時に、東欧から来たちょいと格好いいお兄さんがいました。ま、年齢的には、オヤジですけど、まあ、私もオバサンなので、ここは、お兄さんにさせてくださいな。
彼も、サバティカルのようなモノで、イギリスに来ていました。なんでも、核粒子の研究をしているとかで、結構大きなグラントのついたワールドワイドなプロジェクトに参加しているようでした。その計画には、日本も参加しているらしい。
ほかに、スペイン人の女性と、その彼と、3人で、よく、イギリスの悪口を言っていました。
なぜ、お湯とお水の蛇口が別々なんだ
(ホントなぜなんですかねえ。たとえ一緒になってても、お湯とお水が一緒の蛇口からでてくる感じです)
なぜ、イギリスの家は天井から水が落ちてくるんだ
(なんせ、100年以上も前に建てられた家がほとんどですから、屋根が飛ぶこともあれば、冬の寒い日に暖房が壊れることもある)
なぜ、家を探すのが、こんなに大変なんだ
(でかい家が多いので、シェアがほとんど。でも、なかなか大人になってシェアは難しい。ほかの人達を見るのは、興味深いことではあるんですけどね)
家が見つかったのも、ちょうど同じ頃だったので、水道の手続きは、こうするとか、テレビを買うと、こんなに大変なことがあるとか、あれこれと情報交換していました。
かなり意外だったのは、東欧からしても、
文句の言いたい国イギリス
ってことでしょうか。
部署のある建物が近かったので、キャンパス内でもよく見かけていました。そのたびに、愚痴の言い合い。
でも、しばらく見ていませんでした。
が、昨日帰宅途中に、久しぶりに、たばこを吸っているところを見かけました。
やあ、久しぶり。
どうしたの?しばらく見なかったわよ。
ああ、半年ほど、母国に帰ってたよ。調子はどうだい?
もうすぐ、日本に帰るわ。
久しぶりに見た彼は、少し疲れているようでした。どうしたの?と聞くと、実は、悩んでいるんだとか。なんでも、こっちの大学の所属になるか、どうするか、この半月で決めないといけないらしい。
この大きなプロジェクトを推進するために、彼にイギリスに常時居て欲しいというオファーを受けたらしい。やっぱり、母国よりも、給料はいいし、学会出張の際に、かかる費用へのサポートも、ずいぶん違うらしい。とはいえ、国に家族はいるし、このプロジェクトが終わったら、どうなると言う保証もない。
決めなきゃ、いけないんだ。
いくら、ブロードバンドを接続するのに、20回電話をしないといけなくても、電気代の請求が間違っていたとしても、給料は、こっちの方がいいし、学会に行くときに必要なビザもこっちに居る方がでやすいんだ。
うーむ。ビザのことを言われると、確かに痛い。
日本人は、幸い、たいていのところには、ビザなしで行けます。でも、中国人や東欧の人達は、アメリカに行くのや、ほかの国に行くのには、相当の手続きが必要みたいで、ちょっと学会に行くってわけにはいかないみたいです。私が割合と、気軽に、あっちこっちにでかけているのを見て、これまで中国人しかみたことのなかったイギリス人は、びっくりしていました。これは、確かに、日本人であることに感謝しました。ま、ビザなしは、イギリス人だけって、思ってるっていうのも、ムカツクけどね。
そのおにいさん、このままイギリスに残ることを決めれば、来年、日本の学会に行けると言ってました。
再会を約束して、私は帰宅の途についたのでした。